第27章 【石神千空】Love is blind.
「あー!千空くん、やっときたぁ!!」
千空を見つけた女子の一人の声が店内に響き、その声に周りの目が千空に向かった。
あっという間に千空は学生たちに囲まれたが、当の本人は眉間に皺を寄せ迷惑そうな表情をしている。
そういうの隠さないんだ、とこっそり彼の表情をのぞくは、帰るタイミングを逃してしまったことに気が付き、大きなため息を吐いた。
「くそでけえため息だな」
「だって、なんかつまんないし帰りたいし……って、え、いしが、み……くん?」
「千空でいい」
先ほどまでたくさんの人に囲まれていたはずの千空は、いつの間にかの隣に座っていた。
今日という日は、この石神千空という男に驚かされてばかりだ。
無意識にお酒に手が伸び一気に飲み干した。
「一気飲みかよ……。つか、もうちょい詰めろ。座れねえ」
「ご、ごめん……」
その言葉には壁際に寄り、千空が座れるスペースを作った。
少し動けば肩と肩がぶつかってしまうほどの距離の近さに、はどぎまぎしながらただただ目の前のアルコールとつまみに手を伸ばすだけ。
そしてふと、気が付いた。
この場所だと帰れない、と。