第27章 【石神千空】Love is blind.
だが、が彼を知っていたのはそんな噂を耳にしていたからではなく、大学の入学式で代表者挨拶をしていたからだ。
もう2年前のことだが、彼女の脳裏には鮮明に残っていた。
「珍しいね、千空。君が飲み会に参加するなんて。しかも、まったく関係のないゼミの飲み会に」
「あ゙~、ここんとこ色々行き詰っててな。気分転換がてら飲みてえと思ってな」
「で、俺が誘ったってワケ」
「ゼミの子たちびっくりしそうだね」
「てめえらと飲むからカンケーねぇよ」
会話が途切れなくスムーズに進む様子を見て、は仲が良いんだなとどこか他人事だった。
千空と同じ学部の羽京が仲が良いのはなんとなく想像つくが、学部も違うゼミも違うゲンがなぜ彼と仲が良いのか不思議に思った。
しかしそれは千空が研究室に戻り、再び3人だけの空間が出来上がった時に解決した。
「俺ね、たまに千空ちゃんの実験に付き合ったりしてんのよ。あとは企業との交渉とか。千空ちゃんそういうの苦手っぽいからさ、変な企業に雇われて変にこき使われて変に夢を潰されるなんて、そんなのは千空ちゃんの為じゃないと思ってね」
「ゲンくん、石神くんのことめちゃくちゃ好きじゃん」
「うん、俺の初恋」
「え……」
「うそだよ~」
何処までが嘘なのか。
ヘラヘラと笑う目の前の男は本心を見せないことは知っていたが、もしかしたらゲン自身本心を曝け出せる相手が千空なのかもしれない。
だから今みたいに自分のためではなく千空のために動くことができるのかもしれない。
そう思ったは「仲いいんだね、本当に」と静かにゲンに言い、ゲンもまた「そうだよ、仲がいいの俺たち。ジーマーで」と静かに返した。