第26章 【呪術廻戦】DOOR【3】
新たな存在が生まれるために、初めはなんの存在も無い。
広がる遮断を止められず、通過した後で振り返る。
あり続けていた存在は、葛藤の中で後悔となり限界を超えた出口を見つけ、言いわけの中で閉鎖する。
ありのままを装うことは、壁の向こうを知ることだから。
いくつかの過程をみるために、いつも何かを見失い。
進化の過程を知るために、理解の限りを諦める。
あり続けるためのプロセスは、目の前の壁を越え続けること。
存在の行方を探すため、地平の彼方を見つめてる。
パタン、と音を立てて白髪の男―――五条悟は自身の書いた日記を閉じた。
「科学は、日々進歩しています。今のところ科学に限界はありません。優れた科学者は、科学の壁をも超えることができるのです」
そう言って五条は、静かに後ろを振り返る。
男の研究室にいる、白衣を着た女性はソファに座りコーヒーのカップを口へと運んだ。
そのアンニュイな瞳が、目の前の陽気な男を映す。
男は女性に近づき、向い合せのソファに腰を下ろし長い足を組んだ。
「正確に言うと、科学の壁を超える理論を実証できるのです」
そう言って、男は一冊のノートを女性に渡した。
女性はノートを受け取りページをめくる。
そこにはこう書かれていた。
【おそらく50年後には人類は、文字を電波に乗せて発信する機能を発明するでしょう。電磁波の仕組みを利用した火を使わず物体を温める装置を開発するでしょう。火や水の力を借りない、もっと新しいエネルギーを発見するでしょう。そして人間たちは、暑い日には涼しく、寒い日には温かく、快適な毎日を送る為、空気を支配することになるでしょう】
文章に目を通した彼女は吸っていた煙草を灰皿へと押し付け火を消した。
そしてノートを静かに閉じ、ローテーブルへと置いた。