第25章 【虎杖悠仁】ときめき
「虎杖と恋人同士とかじゃなくてよかったよね。付き合っててさ離れ離れになるなんてさ、しかも日本とウィーンだなんて、ちょっとした悲劇のカップルだもんね。こういう関係でとどまっててさ、よかったよね、私たち」
静かにゆっくりとと虎杖の視線がぶつかった。
の目には、虎杖に同意を求めるようなそんな意思が感じられた。
本当は否定したい。
自分の心の赴くままに、言ってやりたい。
子供のように喚いて泣いてその身体を抱きしめてやりたい。
だけど、わかっている。
そんなわがままは言えない。
自分の我儘で人の夢を壊していいはずがないのに。
何が正しいかなんて、もうずいぶんと前からわからないままだ。
「そう、だな」
本心とは裏腹の答えが、虎杖の口から漏れた。
「そう言う考え方もあるよな」
は安心したような悲しいような笑みを浮かべる。
「で、いつ行くんだ」
「まだちゃんとは決まってないんだけど、年が明ける前には……」
「なんだよ、すげえ急じゃん!!」
わざと明るい声で言えば、も申し訳なさそうな感じではあるが小さく笑った。
これでいい。
これでいいだ。
と、虎杖は何度も言い聞かせる。
「出発の日にち、決まったら教えるね」
「うん。……見送り行くよ?」
「ううん。引きずらないで向こうでスタートしたいから」
「……どういう意味だよ」
「…………そろそろ家の中に戻らなきゃ」
そう言っては足早に家の中へと入って行った。
名前を呼んで引き留める事もできない虎杖は、しばらくそこに突っ立ったまま。
どうすることもできない感情をどこにもぶつけることもできないで、ゆっくりと自分の家へと向かって歩き出した。