第25章 【虎杖悠仁】ときめき
「私……私もうすぐいなくなるんだ、ここから」
「いや、俺もずっと人の玄関前にいるつもりないけど……」
「違う、そうじゃない。そうじゃなくて、私……日本からいなくなるの」
「……それは、つまり、え……どういうこと。海外旅行、とか?」
思考が追い付かない虎杖は、的外れな事ばかりが口に出てしまう。
首を横に振る。
彼女は決心した。
ちゃんと話そう、と。
「小さい頃からの夢だった。ウィーンに行って、ヴァイオリニストになるって。小学生の頃からずっと決めてて。私今16歳でしょ。こういうのって若いうちからちゃんと学んだ方がいいって言われてて、でね、この前のコンクールでたまたま見に来ていた人がね、ウィーンでも有名な人だったらしくてね、声、かけてもらったの。向こうで本格的に音楽を学ばないかって。チャンスだって、思ったの。こんなチャンス滅多にないし、今逃したらたぶん、私……」
尻すぼみになっていく言葉。
最後は音にならずに消えたが、聞こえなくても虎杖には言いたいことがわかった。
「……日本には?」
「しばらく帰って来ないつもり。こっち戻ってきたら多分甘えると思う。お金ももったいないし。向こうでちゃんと音楽学んで、たくさんコンクールとかに出て、実績踏んで、プロになったら、もしかしたらって感じ」
「それ……何か月かかんだよ」
「ばか、何か月どころの話しじゃないよ。才能あっても3年以上はかかると思うし、10年経っても20年経っても芽が出ない人は出ないだろうし。でも、私は限界まで頑張ってみたいの」
彼女の言っている意味は分かる。
だけど、脳がそれを受け付けようとしない。