第3章 【爆豪勝己】盲目をつきやぶれ
思えば、出会った当初から私は彼に興味があって、気に入っていて、どうしても手元に置きたかった。
彼の笑顔が見たかったしふてぶてしい顔も見たかったし、なにより日に日に成長していく彼の姿を間近で見ていたかった。
尊敬していた、畏れていた、どうして今朝まで気が付かなかったんだろう。
彼のような誰かが見つかればいいとずっと思っていたが、彼の代替品を探していた理由は、単純に私が彼そのものを欲しがっていたことだ。
なんて愚かな。
いつものパトロールの道、小さな橋を渡っている時、突然強い風が吹き抜けた。
握っていたはずの傘はあっという間に後方に飛び去り、アーチ状の手すりにぶつかって見えなくなった。
下を覗くと川の真ん中にに開きっぱなしのままひっくり返って浮かんでいた。
取りに行ける。
だって、すぐそこは土手になっていて簡単に降りる事ができるし。
私は進行方向を変え、急いで土手を駆け降りた。
私は全然正しくなれない。
ちゃんとした大人でいられない。
君に恋だってしてしまうし、何より人を死なせてしまったことがある。
死なせて、殺してしまったことがある!
だから傘は見逃せなかった。
傘だけは、見逃せなかった。
ゴミを川に捨ててはいけない。
河川敷に降りて砂利を踏み越え、躊躇なく足を水に入れた。
靴の中に水が流れ込む一瞬だけ鳥肌が立ったが、それだけだった。
靴底と靴下の間に溜まっていく濡れた砂を踏みつけて歩く。
膝まで浸かって、腿まで濡れた。
歩くと水面が波打つ。
手を伸ばして傘の骨に指を引っ掻けて手繰り寄せる。
正しく在りたかった。
君に胸を張れるように。