第29章 【七海龍水】煙の向こう、恋をする
「さっきも言ったろう。美しいと」
「いや、それは、だって……。龍水は誰にでもそういうこと言うし……」
「たしかにな。女性はみな美女だ。それに嘘偽りはない。だがな……」
私を抱きしめる腕の力が少しだけ強くなった。
あ、なんでだろう。
言葉にしていないのに、なんでだか龍水がなんて言うのか、なんとなくわかるような気がする。
場違いかもしれないけど、初恋の人から告白をされた時のこと思い出した。
あの時もこんな感じでが列しそうなほどときめいてて、逆に苦しくて解放されたくてでも求めていて。
そんな複雑な感情を抱いていた。
今は、あの時以上に胸が痛い……。
「こんなにも俺の心を揺さぶるのは後にも先にも、貴様だけだ」
抱きしめられていた身体はゆっくりと離される。
寂しい、とか、もっと触れていたい、なんて気持ちにはならなかった。
だって、私を見つめる龍水の表情が真剣だったから。
嘘じゃないんだって、本気なんだって、伝わったから。
「りゅ、す……」
名前を呼びきる前に、私の唇は彼の唇によって塞がれた。
煙の余韻が残るキス。
ああ、なんの汚れもない彼の唇を汚してしまった。
こうなるくらいなら、タバコ、吸わなきゃよかった……。
キスでこんな罪悪感を抱くなんて思わなかった。
好きだと自覚したのに、こんな気持ちになるなんて……。