第29章 【七海龍水】煙の向こう、恋をする
「」
凪いでいる海のような落ち着いた声色で私を呼ぶ龍水。
赤くなった顔を見られたくなかったのに、自然に私は彼の方を向いていた。
その時、気付いた。
龍水の顔もまたほんのりと赤くなっていることに。
揺れる瞳はどこまでもまっすぐで、男の色気を含んでいて、私の心臓はうるさいくらいに鼓動をはじめた。
ゆっくりと伸ばされた手が私の頬に触れる。
骨ばった太い指先はとても熱くて、その熱が私の頬に伝播して、これから何をされるのか、わかってしまった。
「ちょ……っと、まって……!!」
「なぜだ。貴様も同じ気持ちだろう」
そ、うかもだけど……。
いや、本当にそうなの!?
どうにかして拒まなければ、でないとこのまま流されてしまう。
そんな人間にだけはなりたくなかった。
だけど、龍水は私の考えていることを読み取ったのか、力強く抱きしめた。
逞しい彼の腕の中は不思議と落ち着いた。
トクトクと早い心臓の鼓動は彼のものだ。
「緊張、してる……?」
「当たり前だ。好きな女を抱きしめているのだからな」
「……………えっ!!?」
思わず大きな声が出た。
今、彼は、なんとおっしゃった?
好きな女……?
だれのことですか……?