第29章 【七海龍水】煙の向こう、恋をする
「言葉を失うとはこのことかと、思った」
それはこっちのセリフだ。
ただタバコを吸っていただけだ、私は。
大人びるも言葉を失うような美しさも持ち合わせていない。
どっちかというとスタンリーがそれに当てはまるのではないでしょうか⁉
混乱する私をよそに彼は一歩、また一歩と近づく。
逃げる、という余裕はなかったしなにより身体が動かなかった。
ものの数秒で距離は縮まり、スタンリーが座っていた場所に今度は龍水が座った。
なけなしの逃げ腰は意味を持たない。
居心地の悪さを感じているのは私だけだろうか。
いや、居心地が悪いんじゃない。
言われ慣れていないことを、七海龍水という大きな度量と優れたカリスマ性を兼ね備えた男の口から聞いてしまって動揺しているだけだ。
だってそうじゃん。
私なんかよりスタイルも抜群で美人な女性は山ほどいる。
それなのに、それなのに―――!!
顔が熱くなるのが分かった。
絶対、今、私、顔、赤い……。
そんな私をよそに龍水は話し続ける。
「俺は、タバコというものになんの美学も感じていなかった。だが今、その考えは覆された。、貴様によってな」
「えと、えっと……」
「がタバコを咥えているだけで、俺の心臓は酷く騒がしい」
「えーっと、えーっと……。それはつまり一体どういう……」
どう反応するのが正解なんだ。。
ぐるぐると何もまとまらない思考回路はうまい返答を導き出すこともない。