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【雑多】be there【短編集】

第29章 【七海龍水】煙の向こう、恋をする








心の中で誰に向けたものかわからない文句を垂れていると、「貴様が……」と普段の龍水とは思えないほど静かな声が耳に届いた。

口を手で覆い隠し視線を逸らす龍水は、随分と歯切れが悪い。
何も察することのできない私とは違い、スタンリーは何か勘付いたのか「ごゆっくり」と言いタバコの火を消して、私たちの前から姿を消した。

私達の間には、気まずい雰囲気だけが漂う。
先ほどと同じ暖かい風が緩やかに吹き、龍水の金色の髪を揺らした。
太陽の光に反射した彼の髪の毛はキラキラと輝いてとても綺麗だ。

目の端に長くなった灰が重力に従ってぽとりと地面に落ちるのが見えた。
短くなったタバコの火を消そうとしたら「吸わないのか?」と少し掠れた声で彼は尋ねた。

「うん。短くなっちゃったし。吸う、気分でもなくなったし」
「そうか……。それは、すまなかった」

眉を寄せて謝る龍水。
謝るほどのことでもないんだけどな。
何度も視線を私に送る彼の行動を読み取ることが出来ず「本当にどうしたの?」ともう一度聞くと龍水は重い口を開いた。

「貴様が……」
「私が?」
「貴様が煙草を吸っている姿が、あまりにも……」

そこで言葉は途切れた。
また沈黙が私たちを包む。
しかしそれは一瞬のこと。
瞳を揺らした龍水は私をまっすぐにみつめると、

「大人びていて、美しいと思った」

そう一言告げた。
まさか龍水の口からそんな言葉が出て来るとは思わなくて、私は目を見開いて馬鹿みたいに口をあんぐりと開けてしまった。




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