第29章 【七海龍水】煙の向こう、恋をする
タバコに火をつけ、今度は味わうようにゆっくりと煙を吸い込む。
肺がニコチンで満たされるのがわかる。
細くゆらめく煙が青い空へと消えていくのを黙って見つめた。
静かで穏やかな時間。
春の暖かな風が私たちを包む。
煙が頬をなぞるように流れ、鼻の奥をタバコ独特の匂いが掠める。
その時だった。
遠くの方から誰かが近づいてくる足音が聞こえ、私もスタンリーもそちらを向いた。
そこにいたのは科学王国の五知将の一人、七海龍水だった。
なんでここに龍水がいるんだろう、と思った私の疑問はすぐに晴れた。
そうか、休憩時間が終わったのか。
スタンリーを呼びにここに来たっていうわけね。
しかし、龍水はその場を動こうとしない。
スタンリーと目を合わせ二人で首を傾げる。
休憩が終わったから呼びに来たんじゃないのかな。
「……喫煙者、だったのか」
漸く口を開いたと思ったら、第一声がまさかそれだとは思わなかった。
「うん。タバコなかったから今まで吸ってなかっただけで……」
「フゥン……」
「……えっと、それがどうかしましたか?」
なにか、悪いことだっただろうか。
たしかに女性の喫煙者は昔からあまりいい顔をされなかったけど……。
いやでも、文句を言われるようなことはしていない。
妊娠しているわけでもないしっ!!