第29章 【七海龍水】煙の向こう、恋をする
「へぇ、あんたもこっち側なんだ」
タバコの煙を吐いたスタンリーは口元を静かに緩めた。
彼から一本タバコをもらいマッチに火をつける。
フィルターを咥え、ゆっくりと息を吸う。
数千年ぶりのニコチンの味が私の肺を強く刺激した。
頭がクラクラとし視界がぐるりと緩やかに揺れた。
この症状……。
「ふは、ヤニクラ起こしてんじゃん」
「……久しぶりに吸ったからね。でも、やっぱうまいわ」
「だろうな」
スタンリーの横に座り、二人会話もなく静かに嗜む。
昔吸っていたものよりタールが少しだけ強いけど、吸えない強さではない。
私は一口、二口と、飢えた獣が無心に水を飲むように吸い続ける。
短くなったタバコの火を消し一息つくと、何も言わずスタンリーがもう一本差し出してくれた。
「いいの?」
「今度は味わって吸いな」
お互いに戦争をしあっていた時とはまるで雰囲気が違う。
こんな穏やかな人なのかと思いつつ、彼の優しさを受け取った。