第29章 【七海龍水】煙の向こう、恋をする
「タバコ、一本もらっていい?」
人目のない場所で一人休憩しているスタンリーの姿を見つけた私は、彼にそう声を掛けていた。
ゼノたちアメリカ組と和解後、月へ行くというミッションを控えたスタンリーは、訓練の休憩なのかおいしそうにタバコを吸っている。
人類が石化する前、私は喫煙者だった。
ヘビースモーカーとまではいかないけど、それなりに吸っていた。
でも、人類が復活したこのストーンワールドの世界で「タバコ」という嗜好品は当たり前だけどあるわけもなく。
辞めるにはちょうどいいのかもしれないし、未成年に作ってというには気が引けた。
禁煙して早数年。
このまま禁煙できると、そう思っていたのに―――。
アメリカについてスタンリーを見て、驚きを隠せなかった。
口に咥えてるの、タバコじゃね?
タバコを吸いたいという気持ちが薄れつつあったのに、そんなのを見てしまったら嫌でも思ってしまうだろう。
―――吸いたい。
そんな思いを抱えたまま、私たちはなんやかんやあって銃で襲撃されて石化してまた復活したわけだけど……。
漸く、長い年月を経て私はタバコにありつけることができたというわけだ。