第28章 【スイカ】かさぶた
彼女の泣き声が響きます。
涙をポロポロ零す彼女の姿を見ていた周りの人たちは、「大丈夫か?」「膝を擦りむいてるね。手当しないと」と優しく声を掛けてあげました。
その優しさに安心したのか先ほどよりもたくさんの涙が彼女の頬を濡らしました。
そんな時に、このぼくが生まれたのです。
「はじめまして、スイカさん。ぼくはかさぶたです。かゆいからって剥がしちゃだめだよ。治りにくくなっちゃうから。短い間だと思うけど仲良くできたらいいな」
ぼくは彼女に話しかけました。
でも、彼女にぼくの声が届くことはありませんでした。
僕が生まれて数日が経ちました。
スイカさんとお友達のチョークさんは、会話もしなければ顔を合わせることもしません。
スイカさんは悲しそうな顔をして俯いてしまいました。
潤んだ瞳から涙が零れそうで、ぼくは心配になってしまいます。
「泣かなくても大丈夫だよ。だから顔をあげて」
僕の声は届きません。
早く仲直りをして、スイカさんの笑った顔が見たいな。
その日の夜のことです。
杠さんとニッキーさんと呼ばれている女性と一緒に温泉なる水に入っていた時のことです。
ここ数日は温泉に入る時、僕を濡らさないように気を付けていたスイカさんでしたが、この日だけは違いました。
いつもは濡らさないようにしていたはずの右の膝小僧が今日は濡れました。
ぼくはスイカさんの顔を見ました。
ぼくを濡らしていたのは、スイカさんの涙でした。
いくつもの冷たい雫がぼくに身体に当たって、彼女の苦しみや悲しみを感じてしまいつられて泣いてしまいそうです。