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【雑多】be there【短編集】

第27章 【石神千空】Umbrella







あれから月日が経って俺は、高校1年になった。
家から近い高校を選び、科学部を乗っ取り、やりたいことをやれている毎日を過ごせて充実していた。

だけど、雨が降る日はいつも思い出してしまう。
あの日のこと。
彼女を助けてあげられなかった日のこと。
俺の苦い思い出。

6月上旬。
梅雨の時期がやってくる。
嫌でもあの日のことが頭の中で映像として蘇る。

言えないことが今よりたくさんあった。
あの時の虚無感を今でも覚えている。
忘れられるはずなんてない。

俺の隣からあいつがいなくなってしまったこと。
分かち合えなかった遠い日のこと。

寂しいと思った。
苦しいと思った。
あいつに謝りたい。
あいつに会いたい。

こんな当たり前を思うだけで、胸が苦しくなって景色が歪む。

「今日は転校生を紹介するぞ」

朝のHRの時間、担任がその言葉に、ざわざわと騒がしくなる教室。
だけど俺はそれを聞き流し、ざあざあと降る雨を眺めていた。

彼女は今、何処で、何をして、どんな風に過ごしているのだろう。
悲しいことは思い出になりつつある。
お前もきっとそうだろう?
当たり前のことで、その当たり前がとても悲しい。

「東京から転校してきたです」

俺は自分の耳を疑った。
ゆっくりと窓から教卓の方へと目を移す。

そこには、見覚えのある女がいた。
俺が傷つけてしまった女が。

「……」

椅子から立ち上がって俺は思わず彼女の名を呼んだ。
クラスの連中が俺を見る。
だけど、そんなの気にならないほど俺の心はいろんな感情で満たされていて、
言いたいことがたくさんあるのに、声が喉の奥でつっかえる。

は俺の顔を見て、あの日と変わらない真っ白な歯を見せて満面の笑みで

「久しぶり、千空くん」

一人ぼっちの相合い傘に、二つの笑顔が戻ってきた。



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