• テキストサイズ

【雑多】be there【短編集】

第27章 【石神千空】Umbrella







どんな言葉を彼女にかけてやればいいんだろう。
杠や大樹ならこんな時どんな言葉をかけてやるんだろう。
言いたいことは沢山あるのに、本当に言いたい言葉はどうしていつも声にならないのか。

触れないのが思いやり。
そういう場合もあるんだと思う。
でもそれは卑怯な言い訳だ。
そうだ。
俺は怖いんだ。
彼女の傷みを知るのが。
彼女の痛みを感じるのが。

弱音吐けばいいだろ。
我儘言えばいいだろ。
めげたっていいんだよ。。
今は雨が降っているから、泣いたところで涙か雨かなんて誰にもわかんねえだろ。

そう言えたらどれだけよかっただろう。
俺は、俺が思っている以上に汚くて弱い人間なんだな。
悔しさと嫌悪感で奥歯を噛みしめた。

「ばいばい、またね」

ぱしゃん、と水たまりの上を跳ねる。
くるりと両手を広げて回る。
白い歯が眩しい。
眩しすぎて俺は目を細めた。

腕がちぎれるんじゃないかっていうくらい大きく振って、白い歯を満面に見せて「バイバイ」と手を振る。
俺はそれを見ていることしかできなかった。

「また、明日」

小さく手を振って。
何度も振り返って。

そして彼女は俺の前から姿を消した。



/ 437ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp