第27章 【石神千空】Umbrella
どんな言葉を彼女にかけてやればいいんだろう。
杠や大樹ならこんな時どんな言葉をかけてやるんだろう。
言いたいことは沢山あるのに、本当に言いたい言葉はどうしていつも声にならないのか。
触れないのが思いやり。
そういう場合もあるんだと思う。
でもそれは卑怯な言い訳だ。
そうだ。
俺は怖いんだ。
彼女の傷みを知るのが。
彼女の痛みを感じるのが。
弱音吐けばいいだろ。
我儘言えばいいだろ。
めげたっていいんだよ。。
今は雨が降っているから、泣いたところで涙か雨かなんて誰にもわかんねえだろ。
そう言えたらどれだけよかっただろう。
俺は、俺が思っている以上に汚くて弱い人間なんだな。
悔しさと嫌悪感で奥歯を噛みしめた。
「ばいばい、またね」
ぱしゃん、と水たまりの上を跳ねる。
くるりと両手を広げて回る。
白い歯が眩しい。
眩しすぎて俺は目を細めた。
腕がちぎれるんじゃないかっていうくらい大きく振って、白い歯を満面に見せて「バイバイ」と手を振る。
俺はそれを見ていることしかできなかった。
「また、明日」
小さく手を振って。
何度も振り返って。
そして彼女は俺の前から姿を消した。