第27章 【石神千空】Umbrella
次の日もその次の日も雨が降った。
いつも通りの一つ傘の中、笑顔が二つ。
いつも通りの赤色のタイルを踏んで、いつも通り二人一緒にびしょ濡れになる。
だけど今日は少しだけ違った。
いつもの街灯の下、段ボールが置いてあった。
「猫だ」
がそう呟く。
段ボールの中には彼女が言った通り猫が2匹いた。
大きさからすると子猫だろう。
ミーミーとか細い声で鳴いている猫の体は雨に濡れてとても寒そうだ。
だけど悪い、飼うことはできない。
何もできずにただ突っ立っていると、隣でがかばんの中から折り畳みの傘を取り出して、子猫たちに傘を差してやった。
「これで濡れないね!」
にこりと笑う。
柄にもなくかわいいと思ってしまった。
……いや、そうじゃなくて。
「傘、持ってんのかよ」
「持ってるよ。いつも常備してる」
「……じゃあなんで差さねえんだ」
「だって、差してくれる人がいるもん」
まっすぐに俺を見つめる。
彼女の真剣な瞳に何も言えなくなる。
そんな俺の腕を引いて歩き出す。
傘の中、二人きり。
沈黙が続く、水たまりが跳ねる、雨の音が少しだけ耳障りだ。
「本当の理由は違うんだ」
沈黙を破って彼女は真っ直ぐ前だけを見ている。
その横顔がどこか寂しそうで、ずっと前の、俺と話す前の彼女を見たような気がした。
は足元の水たまりを蹴る。
ぱしゃんと音を立てて彼女の足を濡らす。