第18章 【釘崎野薔薇】ショッピング
「はぁ~笑った」
「それよりさぁ」
漸く笑いの波が過ぎ去った頃、野薔薇っちゃんが残り少なくなった飲み物を見つめながら静かに口を開いた。
「は行きたい場所ないの?」
「行きたい場所?」
「そ。私ばっか付き合わせてんじゃん」
いつもの自信満々で陽気な野薔薇っちゃんからは想像もできないほどしおらしい姿に、私は目を大きく見開いた。
こんな一面もあったなんて知らなかった。
唇を少し尖らせて、ストローで遊ぶ姿がなんともいじらしく可憐なんだろう。
守ってあげたくなっちゃうほどかわいい。
「気にしないでよ。今日の約束忘れてた私が悪いからさぁ」
「それはそうだけど。でも、疲れたでしょ。あんた、こういうところ苦手そうだし」
「野薔薇っちゃんってさ、意外と気にしいところあるよね」
「そう?」
無自覚。
私はテーブルに肘をついて、野薔薇っちゃんの顔をまっすぐに見る。
野薔薇っちゃんの綺麗な瞳が、私の目に映ってにんまりと笑う。
「優しいって事だよ。人の事を考えられる優しい子。だから私、野薔薇っちゃんが大好き」
「……なによ、急に」
「ん~?言いたくなっただけ。あ、じゃあさ。今度また遊ぶときはさ、私に付き合ってよ」
「いいけど、どうせゲームだの漫画だのでしょ」
「ピンポーン。桃鉄99年やろ」
「げぇ。考えただけで吐き気がしてくる」
「あはは。約束ね」
野薔薇っちゃんの前に右手の小指を立てる。
少し間が開いた後、野薔薇っちゃんの小指が私の小指と絡んだ。
「ゆびきりげんまん」
「嘘ついたら針千本のーます」
「「指切った!!」」
するりと離れる小指に少し寂しさを感じながらも、私と野薔薇っちゃんはクスクスと笑った。
私たちの約束は必ず指切りげんまん。
約束という名の縛り、みたいなもの。