第27章 【石神千空】Umbrella
それから月日が経って6月となった。
6月と言えば梅雨の時期だ。
つまり、雨だ。
はほとんど毎日濡れて登校してきた。
何度か先生に注意されたのも見た。
だけどやめる気はさらさらないらしい。
次の日もそのまた次の日も制服を濡らして、雨の中を踊っていた。
くるりくるくる。
なにがそんなに楽しいのか、彼女は口を開けて笑って回り続ける。
そう言えば。
彼女の笑った顔、教室で一度も見たことがない。
彼女が笑う時は必ずと言っていい程雨の中だ。
そりゃそうか。
陰口ばかりが飛び交う教室で笑えるわけがない。
濡れた制服のまま教室に入れば、ひそひそとした話し声がクラスを埋め尽くす。
「床拭けよ」
「汚いんだよ」
「まじでキモい」
「もう学校にくんなっつうの」
たぶんこれは所謂いじめなんだろう。
だけど、中学生の「日常」なんてこんなもんだ。
悪口なんてみんな言っている。
「多数」が集まればそれはもう「普通」になる。
はいつも一人だ。
話す相手もいない。
雨の中、あんなに楽しそうに笑っていた彼女は、教室では口を一門字に結んで笑う気配なんて一切ない。
かわいそうだとは思う。
思うが、それ以上何ができるわけでもないから何もしない。