第26章 【西園寺羽京】月が綺麗ですね。
「好きだよ」
「いきなりどうしたの?」
「私ならこうやって告白する」
「いきなり言うからびっくりした。好きな人でもいるの?」
「うん」
そう答えると羽京は少しだけ驚いた顔をした。
でもそれは一瞬だけで、またいつもの穏やかな顔に戻る。
その反応はなに。
私に好きな人がいるって知って単純に驚いただけ?
それとも、ショックを受けたの?
「好きだよ。大好き」
「僕に言わないで、好きな人に言いなよ」
私の想いはまだ伝わっていない。
だったら伝わるまで何度でも言ってやる。
私が好きなのは羽京なんだってことに。
早く気づけ。
「愛してる。誰よりも」
「だから、僕じゃなくて……」
何度も何度も愛の言葉を吐く。
その度に困ったような笑みを浮かべていた彼だったけど、漸く気が付いたのか私の方へ視線を向けた。
翡翠色の瞳がまっすぐに私を見つめている。
私の勝ち。
唇がにんまりと弧を描く。
「"月が綺麗ですね"」
彼は帽子のつばを掴むと深く被ったけど、真っ赤に染まった耳や頬は隠しきれていない。
やっと気づいた。
やっと伝わった。
私は勝ち誇ったように白い歯を見せて笑った。