第18章 【釘崎野薔薇】ショッピング
ゆっくり準備をしている暇はない。
顔を洗って歯を磨いて髪の毛をセットする。
適当にドライヤーをかけ、適当にタンスから服を引っ張り出す。
この間僅か数分といっても過言ではない。
「ジャージでいい?」
「ふざけんな。ちゃんとオシャレしろよ」
「野薔薇っちゃん選んでー」
「チッ。しょうがないなぁ」
「野薔薇っちゃんの服のセンス好きなんだよね」
めんどくさそうに舌打ちをするけど、なんやかんや選んでくれるあたり野薔薇っちゃんは優しい。
彼女に服を選んでもらっている間、私は適当に化粧をした。
ファンデーションと眉毛だけを描いて終わろうとしたら、また野薔薇っちゃんに怒られた。
こういう時、彼女の力の入れ具合は半端ない。
「しっかり化粧しなさいよ。あんた結構いい顔してんだから。私の次に」
「野薔薇っちゃんのそういうところ好きだよ」
「ハイハイ。ちょっと目閉じて」
息がかかるほどすぐそばに野薔薇っちゃんがいる。
あ、いい匂いがする。
甘ったるくもなくくどくもないのに、引き寄せられる。
もし私が虫なら迷うことなく野薔薇っちゃんの周り飛んでるね。
そんで、最終的に「うざっ!」とか言われて殺されるんだろうな。
良かった、人間として生まれてきて。