第25章 【釘崎野薔薇】そのわけを
と野薔薇の関係は仲のいいクラスメイトとして変わらないまま、数か月が過ぎた頃だった。
ひとつ上の先輩たちによるきつい体術の授業を終えたは少しだけ休憩するために、木陰に腰を下ろした。
遠くで虎杖と伏黒が組手をしているのを眺めながら、荒い息を整える。
「………疲れた」
ぽつりと独り言を呟くの意識は微睡み始める。
そよそよと吹く温かい風、ぽかぽかと温かい日差しに本格的に寝そうになった時だった。
誰かが近づいてくる気配を感じた。
誰だろう。
誰か休憩に来たのかな。
そう思うが目を開けることなく、ぼんやりと考える。
その時だった。
唇に柔らかい感触を感じた。
の脳裏にいつかの記憶が蘇る。
小さなリップ音とともに離れていく唇。
誰か、なんて考えなくても分かった。
この柔らかさをは知っていたから。
「の、ばら……?」
目を開け、目の前の人物の名前を呼ぶ。
彼女は、目を大きく見開いたあと、「しまった」といった様子で眉を八の字にした。
逃げ出したい気持ちはあった。
でも逃げ出さなかったのは、お互いの間にそれを許さないという空気が流れていたからだ。
「なんで……?」
漸く口を開いて出た言葉。
それ以外の言葉が思い浮かばなかった、それ以外のことを聞くことが出来なかった。
あの時聞けなかったこと。
理由を知りたかった。
悪戯でこんなことをする人ではないとわかっていたからこそ、野薔薇の本心を野薔薇の口から聞きたかった。