第25章 【釘崎野薔薇】そのわけを
再びシンと、静まり返る教室。
時計の針の音だけがやけに大きく響いている中、は目を覚ました。
「え?」
間抜けな声が自分の喉から零れる。
野薔薇にキスをされた。
その事実に頭が混乱して情報を上手く処理できない。
まさか、野薔薇は自分のことが好きなのか。
でも「あの野薔薇に限って。それに同性なのに」という疑問が何度も何度も頭の中に浮かぶ。
野薔薇のことは嫌いじゃない。
むしろ好きな方だ。
でもそれは、恋愛感情ではなく友情的な意味で、だ。
だからこそ知りたいと思った。
いつから――なのかと。
しかし、聞いていいものかどうかわからない。
そうでなくても人数の少ないクラスメイトなんだ。
聞いてしまって変に関係がこじれてしまう方がにとっては苦痛だった。
だから何も聞かなかった。
野薔薇の方から何か言ってくるかもしれない、そんな思いもあったから。
しかし、案の定と言うか想像通り、野薔薇は何も言わなかった。
いつもみたいに明るい声での名前を呼んで、楽しそうに笑っている。
つまりそういうことだ、そう言い聞かせた。
もしかしたら一時の気の迷いだったのかもしれない。
もしかしたら自分が見ていた夢だったのかもしれない。
そう言い聞かせて。