第25章 【釘崎野薔薇】そのわけを
ふっくらとした唇は触れたらとても柔らかそうだ。
そんな考えが頭を過り、野薔薇は慌てて首を横に振った。
クラスメイトのしかも同性に対して、そんな事を考える自分に嫌気が差してしまったのだ。
「……起きなさいよ」
机に転がっているのシャープペンシルを手に取り、つんつんと彼女の頬をつつく。
その度に、シャープペンシルの上に着いた小さなキーホルダーが左右に揺れる。
以前、買い物に行った時と一緒にお揃いの物を買ったのだ。
のシャープペンシルには赤い薔薇が、野薔薇のシャープペンシルには向日葵が。
小学生女児が好んで使いそうな物に、初めは抵抗があったが「これ野薔薇じゃん。かわいい」と言った彼女の一言で、先ほどまで抱いていたはずの抵抗感はどこかへ消えた。
単純だと思う。
馬鹿げていると思う。
それでも嬉しかった。
溢れ出すこの感情を"そう"だと言うなら、野薔薇はこの時に淡い気持ちを抱いてしまったのだ。
頬をつついても起きる気配のない。
ごくりと喉が鳴った。
辺りを見渡し誰もいないことを確認した野薔薇は、ゆっくりとの唇に自分の唇を落とした。
少しだけ乾いていたが、やはり想像通り彼女の唇は柔らかく、無意識に何度も啄む。
時間にして数秒。
彼女とのキスを味わった野薔薇は、同性にキスをしてしまったことへの後悔や夜這いに似たようなことをしてしまったことへの後ろめたさなどでいたたまれなくなり、逃げるように教室を後にした。