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【雑多】be there【短編集】

第17章 【爆豪勝己】触れたい、確かめたい。






「何も心配することなんか、不安になることなんか、なかったのによ」

何も言えなかった。
小さく零された彼の言葉に胸が痛いほど締め付けられる。
聡明な彼だから、きっと理解ってしまった。
爆豪のせいじゃないよ、全部私のせいなんだよ。
私が弱いばっかりにあなたの強さを信じることができなかったんだよ。
そう言えたらどれだけよかっただろう。
でもそれは私の喉奥で引っかかって音になることはなかった。

ソファから立ち上がり何も言わずに部屋を出る爆豪。
ああ、彼が行ってしまう。
私から離れてしまう。
自分から手放したくせに未練が糸を引いて切れてくれない。
だけど呼び止めて、一体何を言えばいいのだろう。
居心地のよかった腕の中も、ぶっきらぼうな優しさも全てが愛おしい。

でも、もう二度と触れることはない。

爆豪がいなくなった部屋で1人、私は泣き崩れた。
たくさんの涙が床に零れ落ちシミを作っていく。
この涙を拭ってくれる温かい彼の手を感じることはもうないんだと思うと余計に涙が溢れる。

これで良かった。
こうするしかなかった。
間違ってなんていない。

そう何度も自分に言い聞かせて、漸く涙が乾いた頃、私は一つの決心をした。
彼のことを思い出したら苦しくて悲しくて辛くなるから、全部過去のものにして、心の隅っこにひっそりとしまい込もうと。
そうすれば、思い出しても心はきっと痛むことはないと、本気で思っていた。



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