第15章 【吉野順平】寂しさを口ずさむ
結局私は、私のことばかりだった。
"触れないのが思いやり"なんて、頭のどこかで考えていた。
きっと、そういう場合もあるんだろうけど。
なかなか卑怯な言い訳だ。
彼の痛みを知るのが怖かっただけだ。
なんて、汚いんだろう。
そんな醜い思いで、彼を守っていたなんて、思い違いも甚だしい。
傷ついた君の姿をすぐ近くで見ていた。
それでも君は私の前では笑ってくれていた。
弱音、吐いちゃいなよ。
大丈夫だよ。
君のその感情は、私しか知らないから。
私だけが知っていればいいから。
そう言えたらどれだけよかっただろう。
担任の先生は、吉野くんはどこか遠くの場所へ引っ越したと言った。
どこへ引っ越したのか、それは教えてくれなかったけど。
もう二度と会えないんだろうなということだけはなんとなくわかった。
恐ろしいほどの虚無感が襲った。
たった一度だけど、君と一緒に帰ったあの日が懐かしいよ。
もう君と歩くことは叶わないんだろうね。
色違いのタイルを見つけて、赤色のタイルだけを踏んで、マンホールの上ではしゃいで。
リクエストされた曲、弾けるようになったらまた会えたりするんだろうか。
ごめんね、まだ全然弾けるようになっていないんだ。
練習はしているんだけど、思うように上手く弾けなくてさ。
下手くそでもいいなら、今すぐにでも弾いてあげるよ。
そしたらいつもみたいに意地悪な笑顔を見せてくれるかい?