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【雑多】いつかどこかで【短編集】

第15章 【吉野順平】寂しさを口ずさむ






それからどのくらいの時間が経っただろうか。
吉野くんは学校を休むようになった。
あの日以来、私達はまともに会話をしていないし、顔を合わせていない。
いろいろ話したいことはあるのに。
でも、彼が学校に来たくない理由を知っているから無責任な言葉で傷つけることはしたくなかった。

彼へのいじめが日に日にひどくなっている。
常に助けてあげることができたらいいんだけど、そんなヒーローみたいに上手くいくわけがなくて、私は彼がいじめに遇っているとわかっているのに、何もできずにいる。

彼が今、どこで、何をしているのか、私は知らない。
聞き出していいものかも、わからなかった。

だからこの日、久しぶりに彼が旧音楽室に来てくれたのが嬉しくて、あの日の気まずさなんてどうでもよくて。
ただ、彼との時間を一緒に過ごせるんだと。
それだけで私は充分だった。

「今日は、私の弾きたい曲を弾いてもいいかな」

吉野くんのリクエスト曲を弾き終えた私は、彼の顔を覗き込むように尋ねる。
以前とは雰囲気が変わったように感じるけど、一瞬だけ驚いたような顔をした彼は前髪をいじって小さくうなづいて、その様子は以前と何も変わってなくて、安心した。

「君も知っている曲だよ。口ずさんでもいい」
「え……?」

私は鍵盤に手を置いて、ゆっくりと音を奏でる。

「これ……」
「そう。きらきら星」

誰もが知っている童謡。
きらきら星だなんて、日本語訳した人は一体誰なんだろうね。


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