第15章 【吉野順平】寂しさを口ずさむ
いつの間にか雨は止んでいた。
でも、私たちは傘も閉じずに夢中で赤色のタイルだけを踏んだ。
傘を地面に捨てて、マンホールの上に立つ私達。
だけど、小さな円に二人は乗れなくて、吉野くんがバランスを崩す。
その腕を咄嗟にひいて、自分の方へ抱き寄せた。
「大丈夫かい?」
「す、すみません!!」
「マンホールの上で踊るのは危険だね。滑って転ぶところだった」
「そ、そうですね……」
ゆっくりと体を離すと、彼は顔を隠すように俯き前髪を右手でいじった。
何故恥ずかしがっているんだろうと不思議に思っていたが、先ほどのことが脳裏に過ると時間差で熱が私の顔に襲い掛かって来た。
「すまないね、くだらない遊びに付き合わせてしまって……」
「いえ……」
「雨も止んだことだし、ここまでで大丈夫だよ。今日はありがとう」
「いえ……」
気まずい雰囲気がお互いの間で流れる。
どうにかしていつもの雰囲気に戻そうとするが、そうしようと思えば思うほどから回っているような気がしてならない。
気まずさは色濃くなるばかりだ。