第15章 【吉野順平】寂しさを口ずさむ
なんだろう。
彼と二人でいることに変わりはないのに、胸の鼓動がいつもより激しい。
気まずい、と思っているのは、私だけだろうか。
「色違いのタイル、」
「え?」
自分のことでいっぱいいっぱいだった私の耳に、吉野くんの声が届く。
今、色違いのタイルって言った?
足元を見ると、確かに赤と白のタイルが無造作に散りばめられているが、だからなんだというのだ。
不思議に思って彼を見ると、驚くほど彼の顔は真っ赤に染めあがっていて、思わず声を出して笑ってしまった。
「わ、笑わないでくださいよ……」
「ごめん、あまりにも想定外の表情だったから」
私が緊張していたように、彼もまた緊張していたのか。
ちょっと安心した。
彼も私と同じ感情だということに。
「吉野くん」
「なんですか?」
「色違いのタイルがあるね」
「そう、ですね……。ありますね」
「赤色のタイル以外、踏んだら死ぬから」
「なんですか、それ」
「子供の頃、よくやっただろう。"白線からはみ出したら死ぬ"
みたいな。それのタイルバージョンだよ」
「それは子供の時でしょう。高校生にもなってこんな遊び……」
無邪気に私は赤色のタイルだけを踏んで歩く。
ぴょん、ぴょん、と効果音がつきそうだと我ながら思って楽しいのだけれど、吉野くんは呆れたように困ったように一つ息を吐いて、しぶしぶと言った様子でくだらない遊びに付き合ってくれた。
「マンホールはセーフにしよう!休憩スポットだよ」
雨の中、私の声が響く。
くるり、くるくる。
まるで傘が逆さまになって回るように、私はマンホールの上で回った。
彼は笑みをこぼして、私と一緒に雨に打たれながら赤色のタイルを踏んで、マンホールの上で踊った。