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【雑多】いつかどこかで【短編集】

第15章 【吉野順平】寂しさを口ずさむ






どのくらいの時間が経っただろう。
一時間くらいだろうか、ふと窓の外を見ると先ほどよりも雨は弱まっているように見えた。
時刻は18時を過ぎていた。
最終下校時刻までまだ時間はあるが、雨がまた強まるかもしれない。
帰るなら今しかない。

「吉野くん、そろそろ帰ろうか」
「そうですね」

玄関に行き、そっと手だけを外に出して雨の強さを確かめる。
傘が必要か不必要かで言えば必要ではあるが、多少濡れるくらいだ。
大した問題ではない。
そう思った時だった。

「僕、傘持ってるので途中まで送ります」

少しだけ頬を染めた吉野くんがカバンから折り畳み傘を取り出した。
二人入るにはあまりにも小さいが、彼の優しさや気遣いを無駄にしたくなかった。
なにより、私のことを思ってそう言ってくれたのが嬉しくて少し、ときめいた。

折りたたみ傘に二人はやはりきつくて、肩を寄せ合って歩いても少しだけ濡れてしまう。
だというのに、触れあっている場所が熱くて、濡れていることは、心底どうでもよかった。



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