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【雑多】いつかどこかで【短編集】

第15章 【吉野順平】寂しさを口ずさむ






放課後になると、雲行きが怪しくなり次第に激しい雨が降り始めた。
大半の生徒はうんざりとした様子を見せていた。
私もそのうちの一人だったが、何時かは止むはず。
それまでピアノを弾けばいいだけのこと。

誰も来ない旧音楽室は、静かで穏やかな時間が流れ、疲れた時や安心したいときによく来る。
誘えば彼も来てくれるし、たまにリクエストをくれるから時間はあっという間に過ぎていく。
知らない曲をリクエストされることが多くてその度に「じゃあ、弾けるようにしてください」って意地悪な笑顔を見せてくれる。
その顔が私は案外好きだったりした。

「さん」
「なんだい?」

この日のリクエストはとある映画のサウンドトラックだったが、案の定知らない曲だった。
困ったように眉を寄せれば彼は「じゃあ、さんの好きな曲で」なんてどこか楽しそうに笑った。
だから、激しく鍵盤を叩いてみせた。

「うわ、うるさっ」
「今の天気に合わせて弾いてるんだけど、お気に召さなかったかい?」
「うるさいのは雨だけで十分です……」
「それもそうだ」

お互いに顔を見合わせて白い歯を見せあった。



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