第15章 【吉野順平】寂しさを口ずさむ
午後の授業が始まるチャイムが鳴る。
が、私たちは屋上から一歩も動こうとしない。
教室に戻ったところで、私達がそこにいてもいなくても何も変わらないことをお互いにわかっている。
「で、さんは?」
「私は、そうだね……。これは私個人の考えだけどいいかな」
「はい」
「私にとって"好き"の反対は"寂しさ"だよ」
「寂しさ……?」
いまいちピンと来ていない様子の彼に、私は言った。
「離れてみて初めてわかるものだよ。今君はいじめに遭っているけど、彼らに対して寂しいなんて思わないだろう。それは君もあの子らもお互いの間に"好き"という感情がないからさ。だから寂しさも生まれない。でも逆に。母親はどうだろうね。母親と離れてしまった時、君はきっと寂しさを覚えるはずだよ。お互いの間に"好き"があるからね」
「………ん~、わかるようなわからないような……」
「だから言ったろう。これは私個人の考えだと」
くすくすと笑った。
私のこの理論は人によっては矛盾していると感じるだろう。
"寂しさ"なんて感情は、誰かと一緒にいた時に生まれるものだ。
その感情が生まれた時、人は初めてその人に対しての好意に気づける。
と、私は思っているけど、吉野君には伝わらなかったようだ。
「君は、"寂しい"という生き物を見たことがあるかな」
「ない、ですけど。生き物なんですか?」
「そうだよ。感情なんてものは生き物みたいなものだよ。目には見えないだけで」
だけど、ちゃんと、確実にこの世界に存在している。
今もそこらじゅうに漂って飛び回っている。
誰にも気づかれずに静かに、ゆっくりと、時には突然、私たちの前に現れる。