第15章 【吉野順平】寂しさを口ずさむ
聞きたくないことばかり聞こえてしまう世の中だから。
そんなものは聞こえないように耳を塞いだ。
◆◆◆
「"好き"の反対はなんだと思いますか」
晴れた昼下がりの屋上。
フェンスに寄りかかって座る少年は、静かにそう聞いてきた。
最近よくこの少年は私の元へとやってくる。
初めて会った時の事を一生忘れることはない。
あれは、1ヶ月前のこと。
複数の男子生徒達に暴力を振るわれているところをたまたま見つけてしまい、思わずその間に入ってしまったのがきっかけ。
「やぁ、こんなところで私の弟に何をしているのかな」って適当についた嘘に、暴力を振るっていた少年たちは舌打ちをして逃げていった。
見ていて気持ちのいいものではなかったからあしらったまでのこと。
なんだけど、その日から少年―――吉野順平くんは、暇さえあれば私の教室へ来て顔を出した。
元々友達の少ない私だったから、彼の訪問を拒むことなどしないが。
「君はどうなんだい、吉野くん」
「僕は……"嫌い"だと思ってます。好きの反対が無関心だなんておかしいと思いませんか」
「ん~、どうだろうね。君の考えはシンプルでわかりやすいけど、別段、好きの反対が無関心でもおかしくはないと私は思うよ」
「悪意を持って人と関わることが関わらないことよりも正しいと言うんですか」
むっとする少年に私はふはっと笑った。
そんな複雑な事を考えていたのか。
「無関心っていうのは、関心がない。つまり感情が生まれないということだ。つまり、好きも嫌いもない。そうだろう?」
「……まぁ、はい」
「君をいじめる子達は少なからず君に関心がある。逆転の発想してみると、こうなるね」
だからと言って、人をいじめていい理由にはならないが。
どこか不満そうな彼は、右目を隠すために伸ばした前髪をいじっている。
前髪の下は、煙草を押し付けられた跡がたくさんあることを私は知っている。
消えることのない傷を、彼はずっと抱いている。
それを救う術を私は持ち合わせていないが、少しでも私といることで軽減されるのであれば、彼の側にいることを選ぼう。