第14章 【五条&七海】死んだ方がマシだった【R18】
「ありがとうございました」
ホカホカと体から湯気を上げてバスルームから出てきたに礼を言われ、七海がゆるりとソファーに腰掛けたまま振り返る。
「ちゃんと使えましたか?シャワー」
「はい、なんとか」
にこりと小さく笑う顔は実年齢より幼く見える。
その端正な顔が、先程まで五条に組敷かれ泣いていた人物と同一だとは思えない。
シャワーを浴びて気が緩んだのか、快活な笑顔に逆にこちらが気まずくなるほどだ。
『もっ……、うあっ、あっ……、はぁ、んんぅ……、五条さん…っ』
あの光景を一部始終見た後では。
白いシャツから晒け出された首筋に浮く、赤い点に目が行ってしまう。
「五条さんも派手に付けたな……」
「え、あ……、す、すみません?」
七海の呆れたような口振りに、思わずが謝罪する。
その語尾にはハテナマークがついていた。
違いますよ、と七海が答える。
「首のとこです。こことここ、あと、ここにも。痕がくっきりついていますよ」
を姿見の前に立たせ、鏡に映るように指摘してやった。
五条がつけた、キスマークを。
自分の首や胸、シャツに隠れている腹や太もも。
至る所につけられた鬱血痕を見た馨は一気にその頬を赤く染めた。
シャワーを浴びててこの子は何一つ気が付かなかったのか。
半ば呆れながら、七海はに目をやると来ていた服の裾で一生懸命消そうと擦っていた。
「そんなに擦ると肌が痛みますよ」
細い彼女の腕を掴み、擦るのを辞める様に言うがは首を横に振って抵抗を示す。
「最悪だ。会社の人たちに見られ……」
そこまで言って、彼女は口を閉ざした。
抵抗していた力が抜けたのを悟った七海は腕を解放してやると、もう擦るような真似はせず、じっと鏡に映る自分の体を見つめぽつりと呟く。
「……会社、辞めたんだった」
見られても、どうでもいいのか。
そう言った彼女の顔は先ほどのような快活さはなく、自分の人生を見つめ直しているようなそんな表情だった。