第14章 【五条&七海】死んだ方がマシだった【R18】
七海が、再び溜め息を吐く。
外人の血が混じっているのだろう。
日本人離れした顔立ちに金髪、七三に分けた前髪、全体的に短く清潔感のある髪の長さ。
一重で切れ長の、睫の長い涼しげな目元、北欧の海の色を思わせる瞳。
すらりと延びた鼻梁に、男の色気が漂う口元。
細身の長身、スマートにスーツを着こなした姿はとても五条と同じ世界にいる人間には思えない。
見た目は完全に出来る青年実業家、といった感じだ。
はそんな男性にあからさまに「迷惑な人間だ」といったふうに溜め息を吐かれ、すっかり恐縮してしまっていた。
元来、人に迷惑をかけたり、頼ることを極端に嫌う性質がにはある。
―――どんな事をされても、絶対に後悔しない。
恨んだり憎んだりもしない。
弟を助けてもらう代わりに、自分はあのひとに全てを売り渡したのだから。
覚悟は決めたはずだった。
しかし。
情けなさと羞恥で、既に消えて無くなってしまいたい衝動に駆られてしまう。
膝を抱えて動かなくなってしまったの肩に、七海が自分の着ていたスーツのジャケットを脱いでかけた。
ギクリとが顔を上げる。
「あ、の、これいいです……、汚れる……っ」
「ちょっと暑くなってきたから預かっててくれませんか?それにどうせクリーニングに出すつもりだったので、気にしないでください」
綺麗な顔でニコリと笑う七海に、はうっ、と言葉を詰まらせた。
「すみません、ありがとうございます」
結局断り方を考える事が出来ず、手稲に頭を下げた。
そのお辞儀に答えるようにクスリと笑い、七海は再び運転席に乗り込む。
バックミラーに、俯いたままのが映った。
同情なんかしない。
彼女と似た境遇の女達なら何人も見てきた。
だが、ここまで覚悟を決めきったような、悲嘆にくれる素振りもないような人間は初めてだ。
勿論、五条がここまで興味を示す人間も。
───分からないでもないですけどね、五条さん。
自分もこの女性に興味が湧いたらしい。
無論、五条のそれとは種類が違うが。
現に今だって、既に要らない世話をやいている。
どうする気なんだか、と誰にともなく呟き、七海は再び車を発進させた。