第3章 【爆豪勝己】盲目をつきやぶれ
「君といれば、何でもできる気がする」
思ったことをそのまま口にして目を細めた。
口の端が勝手に持ち上がって、薄く開いた歯の隙間から零れた吐息はどうか誰にも聞かれませんように。
好きな人を振り向かせるときと同じような温度の声だった。
異なっているのは、声の中身に打算も駆け引きも欲も何も含まれていないことだ。
ただの本心、憧れに似たようなものを軽口のように呟けて、私が心底安堵した。
相手からなんの返事も望まない告白ほど気楽なものはない。
冗談として続けられる。
「プロヒーローになったらエンデヴァー事務所に来なよ」
「俺は自分で事務所を立ち上げんだよ」
バクゴーの返答は早かった。
私の突然の発言はどうやら深読みされなかったらしい。
それでいい。
「もしも君と同年代だったら」
例えば、子供時代。
時間が無限にあった頃に、同年代の私と君が出会ていたなら。
例えば、学生時代。
地元のヒーロー科ではなく、雄英のヒーロー科に通えていたなら。
「本当に何でもできるような気がする……」
今とは別の形でバクゴーと出会ってみたかった。
バクゴーと友人になりたかった。
誰からの視線を気にする事もなく、手を伸ばして肩を叩いて冗談を言い合って笑いたかった。
ありもしない仮定に焦がれるばかりで身が持たない。