第12章 【石神千空】プラネタリウム
だけど、石神くんは私の痴態なんか気にもしていないようで、それどころか私の前に手を差し出してきた。
なんだろうと彼の手を見てみると、そこには一本のホット缶が握られていた。
「えっと……、」
「さっきのお礼だ。ココアだけど、飲めるか?」
首を縦に振った。
お礼……ってホッカイロのことだろうか。
それだけのためにわざわざ麓まで下りてまた戻ってきたというのか。
「あり、がと……」
石神くんからホット缶を受け取るとじんわりと掌が温かくなる。
それと心も。
私のためにこれを買ってきてくれたんだ。
今日、ここに来てよかった。
嬉しい、嬉しい、嬉しい。
飲むのがもったいないなと思ったけど、石神くんが買ってきてくれたのに飲まないほうがもったいないと思った。
「あ、のさ。石神くん」
地面に座って白い息を吐きだす石神くんは静かに夜空を見上げていた。
「石神宇宙飛行士、ISSにアサインされたって……」
「あぁ、つい一昨日連絡がきてな」
「おめでとう。……て、石神くんに言う事じゃないと思うんだけど、でも、おめでとう。すごい」
「ISSなんて日本人は誰でも乗ってるだろうが」
その言葉の意図をすぐに理解できずに首を傾げる。
なんか、話が微妙に噛み合ってない?
少し考えて、もしかして……と一つの仮定が生まれた。
もしかして、さっき私が「日本人初の月面着陸者」と言ったことに対しての返答だったのだろうか。
だとしたら、石神くんって……。