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【雑多】いつかどこかで【短編集】

第12章 【石神千空】プラネタリウム






そこまで考えて私ははっと我に返る。

いやいや、何をそんなに深刻に考える必要があるんだ。
一人ぼっちになったところで、ここは地球でちゃんと重力あるし、麓をみれば街明かりが並んでいるし。
乾いた笑みを浮かべ、私は一度テントに戻った。
こんな気持ちのまま家に帰るのはなんだか悔しくて、少しは楽しかったと、彼と少しだけ話せたことが嬉しかったと、そう記憶に残したかったから、カバンの奥に大事にしまっていたそれを取り出した。

少し欠けた月が見えるところまで歩き、宇宙飛行士と宇宙船を月面に着陸させる。
そういう遊び。
なんだか幼い頃を思い出した。
むかしもこんな風に人形で遊んでいたな。

「石神宇宙飛行士が、今、月面に着陸しました!日本人初の月面着陸に、日本中が、いや、世界中が注目しています!さぁ、その第一歩目、石神宇宙飛行士にとっての、日本にとっての、大きな一歩目です!!」
「アイツがアサインされたのはISSだ。月面じゃねえ」
「っ!!……い、石神くん」

一人で楽しく遊んでいた私の耳に、いるはずのない人の声が聞こえ心臓が飛び出る程驚いてしまった。
後ろを振り向くと呆れたような変なものを見るみたいな、そんな顔をしていて、今の茶番を全部見られていたのだと気づき、その場から逃げ出したいと言うより、死にたくなった。

「あの、あのあの、これは、その……」

言い訳したくても混乱している頭では、言葉すらもうまく出てこない。
どうしよ、どうしよ。
石神くんからのクリスマスプレゼントで、石神くんのお父さんの名前で遊んでいた罪悪感と羞恥心、そして好きな人にこんな痴態を見られたことに、足の先から血の気が引いていくのがわかる。
今死んだとしても神様はきっと許してくれると思う。
それくらい私は今すぐにでも存在を消したい。





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