第12章 【石神千空】プラネタリウム
沈黙、静寂。
1秒にも満たない時間だったのに、長い年月にすら感じた。
「あ、のさ」
漸く、声が出たと思ったら裏返ってしまった。
やばい、恥ずかしい。
笑われたらどうしよう、怖い。
怖い、恥ずかしい、やだ、死にたい。
透明な膜が瞳全体を覆い、視界が揺らぐ。
泣くな。
泣いたら、困らせちゃう。
嫌われちゃう。
大きく息を吸って吐いて、もう一度、彼に「あのさ」と声を掛け顔を見る。
そこで気が付いた。
彼の鼻先や頬が寒さで真っ赤になっていることに。
「これ、よかったら使って。寒いし風邪、引いちゃうから」
たどたどしく、小さな声。
それでも私の声は彼に届いたと思う。
だってここには私達以外誰もいないし、騒音も喧騒も聞こえないし、虫や動物たちの声もしないし、お互いの息遣いが分かるほどの、本当に静かな空間だったから。
石神くんは、眉間に皺を寄せていて訝し気な顔をしていたけど、二つのホッカイロを見て小さな笑みを零した。
学校では滅多に見せない、幼馴染二人の前でしか見せないその笑顔に、心臓がぎゅうっとなって、苦しくて、嬉しくて、目頭が熱くなる。
だって、だって。
なんだか、彼らと同じ立ち位置に立てたような気がするし、何よりこの瞬間、この笑顔は私だけのものだと思ったら、感情が揺らぐのは当たり前だと思う。
「ありがたく頂いてやるよ」
ここに杠ちゃんや大木くんがいたらきっと「もう、なんでそんな言い方するのかな」「千空、ちゃんとお礼を言わないと駄目だぞ!!」って言うんだろうな。
そしたら石神くんは、面倒な顔をしながら「あ゙~、アリガトウゴザイマシタ」って棒読みで言うに違いない。
想像上の彼らはいつも通り仲が良くて、想像なのに妬けちゃう。