第10章 【狗巻棘】舞台、閉幕。
なんて思っていたら、棘がいないことに気が付いた。
真希に聞いたら、忘れものを取りに部屋に戻ったらしい。
絶対誕プレだな。
任務帰りでそのまま教室に来たのなら、忘れても仕方ない。
「さん、演技下手くそですね」
「え?なにが?」
「とぼけないでくださいよ、棘先輩の事ですよ」
プレゼントを渡そうかと真希が言っている最中に、野薔薇が私に近づいてそう言ってきた。
「何か、あったんですか」
野薔薇は、よく人のことを見ているな。
隠し事はできないだろう。
でも、言えない。
夢の中で棘にキスをされたこと。
言ったところでどうにもならないから。
それよりも今はこの瞬間を、この関係をこれ以上拗らせないようにすること。
「何も。ただ、寝不足なだけ」
「……そうですか」
野薔薇、ありがとう。
私のために心配してくれて。
いや、恵や棘の事も心配しているのか。
野薔薇は優しい女の子だから。