第10章 【狗巻棘】舞台、閉幕。
その日の夜、夢を見た。
教室の教壇の上。
いつもと変わらない高専の制服に身を纏った私が何かを言っている。
何かを叫んでいるけど、声は聞こえない。
音のない世界。
なのにどうしてだろう。
胸の鼓動が激しくうるさく鳴り響く。
私が叫んだあと、窓際に歩いていき、纏められていたカーテンのタッセルを解き、身体を包みこんだ。
夢の中の私は真っ白なカーテンに全身を包み込んだ。
真っ白なカーテンはまるで純白そのもので、穢れなどなく、苦しかった。
夢だからだろうか。
教室の机に誰かが座っていて。
小さく口を開いたその唇から私の名前が零れた。
ただ怖かった。
何度も私の名前を呼ぶ誰かが近づいてくる人物が誰なのか、わからなくて。
その人との距離が近くなればなるほど、真っ白なカーテンはどんどん白くなって眩しい光を放って、目を細めてしまう。
そして、カーテンの隙間からその人を見た。
眩しくて、逆光のせいで誰なのかわからなくてもっと怖くなった。
そして、静かにゆっくりと真っ白なカーテンは左右に開かれた。
光りの中。
私の目の前にいた人物に驚きを隠せなかった。
驚きで開いた唇に柔らかいものが触れた。
その夜、私は夢の中で
棘にキスをされた。
衝撃で目を覚ました。
すでに日は昇っている。
いつもより少し早い目覚め。
私の全身は汗で濡れていた。
嘘でしょう。
夢とはいえ、棘にキスをされるなんて。
それに。
棘は何度も私の名前を呼んでいた。
いつもなら呪ってしまう言葉は。
何度も何度も私の名前を紡いでいて。
これ以上棘を近づけさせてはいけない。
傷つけしまう前に、何とかしなければ。