第10章 【狗巻棘】舞台、閉幕。
だけど、棘は。
「しゃけ」
「ほんと?やった!!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて無邪気に喜ぶ姿を見ても。
唇に弧を描いても。
「じゃあ、明後日楽しみにしてる。誕プレもね」
「ツナマヨ、明太子」
「あはは、バレた?」
「ツナツナ」
「あはは!!じゃあ、またね」
何も言ってこなかった。
満面の笑みを浮かべたら、棘も満面の笑みを浮かべて。
ああ、私はなんて酷いことを棘に押し付けてしまったのだろうか。
棘の下手くそな嘘を剥がすことはできないだろう。
そう思った。
それでもやっぱり、棘は大切な幼馴染に変わりないから。
「棘ー!!何か悩み事あったら言ってね!幼馴染なんだから隠し事、なしだよー!!」
なんてひどい言葉なんだろう。
彼が何で悩んでいるかなんて私が一番知っているのに。
全部わかったうえでこんなことを言っている私はなんて卑怯。
だけどこの卑怯さに免じて、何かを言ってくれればって、そう思っただけなんだ。
とても怖い。
本当の私を棘に見せるのが。
そして彼の心の中を覗くのも。
私はずるい。
どこまでもどこまでも。
野薔薇。
あんたは私のこと大好きだって言ってくれたけど。
こんな先輩を好きだなんて言っちゃだめだよ。
こんなクズな人間を。
アンタは、真希みたいな芯の通った女になるんだよ。