第10章 【狗巻棘】舞台、閉幕。
恵からキスをしてくれるなんて珍しくて。
それが嬉しくて、浮足立つ足取りで高専の廊下を歩いていた。
そしたらちょうど買い物帰りの棘が真正面からゆっくりとした足取りで歩いてきた。
その手には何か握られてるけど遠くてよく見えない。
「あ、棘~」
何を買ってきたのか知りたくて、大きく手を振って足早に近づく。
そしたら棘はそれを背中に隠した。
なんで隠すんだろう。
あ、そうか。
私の誕生日プレゼントだな。
どこのお店に行ってきたのか聞き出そうと、棘の顔を見る。
身長差がある為、嫌でも上目遣いになってしまう。
「こんぶ」
何でもないような素振りをしているけど。
棘、演技下手くそだね。
私のことを好きになってから、棘は自分の気持ちに嘘をついている。
私が恵と付き合っているからなんだろうけど。
「明後日私の誕生日でしょ?だからみんなでお祝いしようって話してて、明後日空いてる?」
首を小さく傾げた。
野薔薇の言う通り、棘が棘に嘘をついて傷ついているなら解放してあげよう。
だから、我慢しなくていいから、自分の気持ちぶちまけてよ。
そしたら私が、棘の気持ちを、傷ついた心を解放してあげるから。
なんて思うのは、上からすぎ?
でも、やり方なんて知らないから。
クズみたいな言い訳を述べながらも、私は私の望む言葉を棘の口から吐き出されるのを待った。