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【雑多】be there【短編集】

第9章 【狗巻棘】舞台、開幕






教室の中から聞こえる盛り上がる声。
に交じって聞こえる音色に、嫌な予感がして。

静かに、少しだけ、教室の扉を開けた。
目の前には楽しそうに嬉しそうに話すと恵の姿。
少し頬を赤らめて恥ずかしそうに笑うの姿。
彼女の手には、オルゴールがあった。
真っ赤なガラス玉が埋め込まれたオルゴール。
体の力が抜けて、紙袋が地面に落ちる。

かしゃん。

真っ白な頭の中で思った。
壊れてしまった、と。

落とした音に気づいたのか。
彼らはこちらに目を向ける。
彼らと、皆と、目が合った。
それが嫌で怖くて恥ずかしくて。
落としたそれを持って逃げ出した。

まさか、恵も同じものを買っているなんて思わなかった。
なんで、なんで、なんで。

同じ言葉を何度も何度も頭の中で反芻する。
馬鹿馬鹿しい。
恥ずかしい。
惨めだ。
嫌だ。
消えたい。

きっとこんな気持ちになるのは恵が俺と同じものを買ったからじゃない。
俺がオルゴールをあげても、彼女はきっとあんな顔はしないだろう。
解ってしまった。
解ってしまって、それが悔しかった。

「ありがとう」と言ってくれる言葉が嘘ではなくても、見せてくれる表情は違う。
俺と恵では天と地ほどの差があるんだって思い知ってしまった。
俺じゃ、どうあがいて恵には勝てない。
自分の浅はかさが恥ずかしい。



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