第9章 【狗巻棘】舞台、開幕
部屋に逃げ込んで。
袋を床に叩きつける。
元々壊れていたそれが今更壊れたところで、何も変わらない。
息が上がる。こみあげる何かをぐっとこらえ、静かに鎮座しているプレゼントを見つめる。
喜んでもらえると思って買ったプレゼント。
壊れてしまったプレゼント。
ゆっくりとしゃがみ、包装紙を解いた。
中身はやはり壊れていた。
ゼンマイを巻いても、途切れ途切れにしか音は鳴らない。
せっかく綺麗な音色なのに。ちゃんと奏でることができない。
溢れ出しそうになる涙を必死に抑えた。
壊れたそれを持って、外へと出る。
高専の区画内に、湖がある。
走って走って。
軽く息を弾ませながら、夕日に照らされた湖が真っ赤に染まっている。
まるであの子の唇の色のよう。
奥歯を噛みしめて、右手の中に閉じ込めたそれを。
俺は思い切り放り投げた。
綺麗な音を奏でていたその箱は。
綺麗な弧を描きながら空を舞い。
捨てられて湖の底へ消えた。