第9章 【狗巻棘】舞台、開幕
いつもと変わらない高専の制服に身を纏った彼女を見た瞬間。
思い出した。
昨日見た夢のこと。
夢の中の彼女も同じ格好していた。
同じ場所に今みたいに立っていた。
違うのは、ここに俺以外の人間もいると言う事。
生唾を飲み込んだ。
心臓が大きく鼓動する。
「実の兄だろうと関係ないわ。私はお兄様を愛しています!」
震える声で彼女は叫ぶ。
実の兄に恋をした妹。
禁断の愛。
それをドラマでやるのもすごいと思ったし、話の内容が気になりすぎる。
それと同時に俺の胸も締め付けた。
「私を引き裂いて私の魂をみてください。そこに私の本当があります!」
泣き出したくなった。
たとえセリフだとしても、には言って欲しくなかった。
俺の気持ち。
俺の本音。
全て俺が抱いている思い。
「……どういうドラマ?」
物まねが一通り終わった後、恵がぼそりと呟いた。
誰もが思ったであろう感想を述べてくれてありがとう。
だけどそれ以上に、俺にとっては衝撃が大きすぎた。
教壇では、便乗した悠仁が何か物まねをしてゲラゲラと悟が笑っている。
けど、それもどこか遠く聞こえるのは、それだけダメージが大きかったのだと物語っている。