第9章 【狗巻棘】舞台、開幕
そしてとあるものを指さした。
俺が指さしたものはオルゴール。
どんな音色を奏でるのか、知らない。
ただ、真っ白な箱に小さなガラス玉が埋め込まれていた。
逃げたくて適当に指さした物だったけど、一瞬で一目惚れをした。
真っ赤に光るガラス玉は、あの子の唇の色。
真っ赤なグロスを付けている、あの子のカラー。
野薔薇に感謝しなければ。
幼馴染誕生日プレゼントを買いたいけど、何がいいかわからなくて悩んでいた時に、野薔薇がこの場所を教えてくれた。
ラッピングを待っている間に、店内をぐるりと見渡す。
ネックレスやイヤリング、マグカップなどが立ち並ぶ店内。
どれも魅力的だけど、あのオルゴールに勝るものはなくて、いい買い物をした。
喜んでくれるといいけれど。
「お待たせしましたー」
綺麗にラッピングされたプレゼントを大切に持って、俺は寮へと戻った。