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【雑多】いつかどこかで【短編集】

第8章 【夏油傑】ひとでなしの恋【R18】






悔いても悔いきれない後悔が夏油を襲った。
だから今度が間違えない。

「、私は今でも君の事が好きだよ。愛している」

唇を離し、彼女にだけ聞こえる声で夏油は愛を紡いでいく。

「遅くなってしまったが、私と一緒に来てくれないか?」

ずっとずっと待ち望んでいいた言葉。
は大粒の涙を流した。
この手を握ったなら、もう元の生活に戻ることはできない。
それでもいいと思った。

しかし、カレンダーの赤く囲んである日付の下の文字がの瞳に飛び込んだ。
3文字の単語が胸に重くのしかかり、脳裏に愛しい彼の姿が浮かぶ。

かわいた笑みが零れた。

「……無理だよ。無理に決まってんじゃん」

夏油のことは今でも好きだ。
その気持ちに嘘偽りはない。
しかし、

「遅すぎだよ」

彼女の気持ちが男に傾くことはない。
傾くことはないが、この中途半端な気持ちのまま新しい人生を歩むこともできない。

事情を話せばあの人はきっと許してくれる。
ありったけ心配して、ありったけ泣いて、ありったけ怒ってくれる。
そう言う優しい人なのだ、が愛した人は。

はベッドに転がる銃に手を伸ばした。
先ほどは握ることなどしなかったそれを、今度はしっかりと握りしめた。

夏油のことは今でも好きだ。
それを抱いたまま彼と一緒になることはできない。

夏油のことは今でも好きだ。
だからといって彼と同じ道に進むことはできない。

罪悪感と嫌悪感と愛と憎悪に苛まれたまま生きることはとても難しい。
そんなことで、と人は言うだろう。
しかし彼女にとってはそれくらいのことだった。

は、引き金に指をかけるとゆっくりとそれを持ち上げ、自身のこめかみに銃口を向けた。
夏油の瞳が大きく見開かれる。

「ごめんね」

涙が頬を伝った。
同時に乾いた音が部屋に響き、まるでスローモーションのように馨の身体はベッドに沈んだ。
赤く染まっていくシーツ、白く濁っていく瞳。
夏油はただ黙って見つめていた。



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