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【雑多】いつかどこかで【短編集】

第8章 【夏油傑】ひとでなしの恋【R18】






涙と鼻水で顔がくしゃくしゃになるの言葉に夏油の表情が一瞬曇る。

「なにを、言ってるんだい?」

優しい口調のはずなのに、物言えぬ圧力といつもより低い声色にるかの身体が跳ねる。

「これを望んだのはだよ」
「え……?なに、言って……」
「私は他の選択肢もあげてたのに、君は私に股を開いて私に愛されたかったんだ」
「ちが……っ、違う!!違う……っ、そんなこと……!!」
「嘘をつくなよ。自分でもわかっているんじゃないのかい。銃は君の手の届く範囲に置いていた。君が銃に手を伸ばした時、私は動かなかった。あと少しで届くはずだったのに、君は銃を握って私を撃たなかった」

耳元で囁かれる言葉の羅列にの身体はかたかたと震える。
彼の言葉を心の中で否定していても頭ではわかっていた。
あの時、銃を取らなかったのは……取れなかったのは……。

「は私を受け入れたんだ」

夏油のことを今でも好きだと、気付いてしまったから。

「はもう私のものだよ」

を力強く抱きしめる夏油はまだ震える彼女の背中を優しく撫でる。
彼女の身体中に散らばる鬱血痕や歯形にキスを落とし「ぜんぶ、私のものだ」と小さく呟き自身に言い聞かせる。

「どこにも行かせない」

夏油の目に映るいくつもの段ボール。
部屋は綺麗に整理され、どこかへ引っ越す前の日のよう。

「誰にも渡さない」

夏油の目に映る小さなカレンダー。
赤いペンで丸が付けられた日の下に文字が刻んである。

「私のものだよ」
「……だったら、なんで」

ずっと泣いているの声に夏油が耳を傾ける。
目を真っ赤に腫らした彼女は、強い眼差しで夏油を睨んでいる。
密着している身体を離すように夏油の胸を掌で押し返す。
離れないように抱きしめる力を強めることはできたが、今はただ彼女の要求に従った。
夏油はの言葉を待った。
ただただ、待ち続けた。



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