第8章 【夏油傑】ひとでなしの恋【R18】
「結局、好きな食べ物に落ち着くと思わないかい?」
ずぞぞ、とそばを啜る音が聞こえる。
「それはその人の匙加減じゃない?」
ずぞぞ、とそばを勢いよく啜る音がまた聞こえた。
どうやら彼らは、何かを食べたいと思った時、何を食べたらいいのかと疑問を抱いたら、好きなものに手を伸ばしてしまう、というどうでもいい話に花を咲かせているようだ。
「私は、その時食べたいと思ったものに手が伸びるよ」
「その食べたいと思ったものがなかった時の話をしているんだよ」
「……んー、その時は無理やりひねり出すんじゃない?」
「君とは話にはならないな」
小馬鹿にしたように大きく息を吐く夏油に少し腹が立ったのか、は夏油のご飯の上に乗っていた海老の天ぷらに箸を伸ばした。
嫌がらせでもしてやろうかと企んだのだが、彼女の思惑は夏油には見透かされていたようで、ひょいとお椀を持ち上げられ狙っていた海老は彼の口の中に簡単に放り込まれた。
「そう簡単に天ぷらはあげられないよ」
「別にいいし。そこまで食べたかったわけじゃないし」
唇を尖らせて拗ねたような態度をとる彼女に、夏油は喉奥で笑った。
それにむっとしたは「なんで笑ってんの」と聞くと「悟を相手にしてるみたいで、おもしろいよね」と答えた。
「うわ、最悪。あんなガキみたいな奴と同列とかどこもおもしろくないんだけど」
「さっきの話に戻るんだけど」
夏油はそばを勢いよく啜った。
口元に飛んだめんつゆを紙ナプキンで拭きながら、「どうやら私は、食べる物に困ったら好きな物を選んでしまう傾向にあるらしい」と至極真面目なトーンで話し始めた。